momogenics!🍎🥧

星のカービィ邪道創作(ももメタ専

前兆(不穏なメタスー+メタモモ)

 

まただ。
またあの夢だ。
あの時以来、あの乙女の姿が頭から離れない。
桃色の身体に白い鎧を纏った、白い翼の乙女。
毎日夢の中に彼女が出てくる。
ギャラクシアの力を持って覚醒し、ふたりが新たな姿となった時。
私は私の知らない彼女の姿を見た。
透き通る瞳、柔らかな白い羽毛を豊かに湛える大きな翼、見たものの心を包み込んで融かすような、慈愛に満ちた微笑み。
彼女を見た瞬間、雷に撃たれたように私の心は凍りついた。
意識の全てが、彼女に支配された。
彼女の祈りにより、私は絶対的な自信と力強さを手に入れる。
恐れを溶かしてゆく。
あらゆる祝福を私に授ける。
銀河の命たる光と一体化し、私たちは共に、闇を切り裂く。
そのような胸が弾き飛びそうな高揚感と、全能感ともに、私は目覚める。
そしてこの後ろめたさだ。
決して認めたくなどない。
今の私の隣には、紅色の滑らかな長い髪を持つ、美しい娘が眠っている。
なのに私は。

「おはようございます、兄上!」
いつもの通り外の空気を吸うために屋敷の外に出ると、元気な声がした。妹だ。
彼女の姿を見た瞬間、かの乙女の姿が被さる。
「おはよう」
胸がざわついて、短い言葉が反射的に滑り落ちる。
妹はいつもどおり身近で、派手で、元気いっぱいで騒がしいいつものメタリアだ。仮面に顔が隠されているとはいえ、その姿にしとやかな白い乙女の面影はとても浮かんでこない。
あの神々しいとさえいえる乙女は、本当にこのメタリアなのか……


「兄上が最近そっけないのです」

メタリアがアタシに悩みを打ち明けてきた。
メタナイトが、アンタに冷たいの?」
「ええ…」
常にハイテンションの塊のようなこの子が、病気か、と思えるほど元気がない。彼女にはそれが相当堪えているようだった。
「なにか話しかけても無視されるか、あとで、とかなにかと濁されるかで……」
メタリアはしょんぼりと俯いた。
「ぼく、何か悪いことをしたのでしょうか……」
「そうねえ…」
アタシはそんな彼女にどう答えるか、一瞬思案した。
「どう接したらいいか、わからないんじゃない?アンタと」
そう返すのが精一杯だった。
「ですよね……兄上とは仲直りしたつもりだったけど………でもやっぱり今更、出戻ってきても、ですよね…」
そうじゃないのよ。いったい、アンタはどこまで鈍感なの。
本音を口に出すのは無理だった。
それは彼のことも、アタシのことも、全てを認めることになるから。

今からそう遠くないあの日。ポップスターに襲来した暗黒生命体とのハルバードをも巻き込んだ激しい戦いの末の話し。沈黙した宵闇の中、他の多数の彼の部下とともに暗闇の中へと生身で飛び立ったメタナイト達を案じながら宙空(そら)を眺めていると、遠くに小さな光が降りてきた。それは近づくにつれて、ヒトだとわかった。白く輝く、眩い光を纏う白い騎士と、白い女の子。
手を取り合って、ハルバードに降りてくる二人を見た時。
あの二人には入り込めない。
アタシはそう確信してしまった。
甲板に降り立った二人は光をはじき飛ばし、いつもの二人に戻った。
あっというまに乗組員が群がって、二人の姿は見えなくなる。
アタシはそれをただ遠くから見ていた。
「スー!!」
踵を返そうとしたその時、遠くからメタリアが大声でアタシを呼んだ。この子は、なにかと、やたら気を利かせるのだ。アタシとメタナイトを、二人きりにするために。

メタリアが群がる部下たちを引き受け、アタシは歩み寄ってきたメタナイトと対面する。
「ただいま、スージー」
彼の金色の瞳が穏やかに揺れる。
「無事でよかったわ、メタナイト
アタシたちは、いつも通り抱き合う。
彼は、いつも通りアタシに優しい。
だけどそれは、残酷な優しさだ。
彼は完璧な優しさのかわりに、メタリアに見せる少し怒りっぽくて、時々抜けていて、そしてほんの少しだけ陽気さをふくんだ表情を、アタシに見せることはない。
そしてアタシ自身も、彼と共にいるのとは別の、アタシ自身が望む生き方を見出しつつあった。アタシは、ハルトマンの娘。
それなりのあり方を、メタナイトに恋するのとは違う、もうひとりのアタシが望んでいる。もう無視することができないくらい、それは日に日に大きくなっていた。


ギャラクシアと心を一つにした騎士の魂が、ギャラクシアに切り裂かれて生まれた私達は、
良くも悪くも、この剣の導く運命(さだめ)からは、逃れられないのか。


(「スージーショック」に続く)