泣きたい場所 (メタスー破局後のメタとモモ)
スージーが出ていった日の夕刻。
「メタリア」
メタナイトが声を掛けた。
見下ろす大地のはるか遠くには、夕日に照らされた海が見える。
「はい」
「今度、海を見に行くか」
今、ここには二人しかいない。
メタリアが見た、すこし洒落た、灰褐色の石造りのバルコニーにやや屈みもたれて、風にあたる彼の横顔は、
だいぶ吹っ切れていた。
「海、ですか……いいですね」
兄が言うのは、言うまでもなく、オレンジオーシャンのことだろう。
あそこは、夕暮れ時ともなれば、空から大地まで、何処までも蜜柑色に染まる。その様相は、得もしれぬ美しさだ。
一度、二人が幼い頃、今は亡き父に連れていってもらった。それっきりだ。
「僕達、旅行なんてしたことないですものね」
「そうだな」
ふたたび、二人で静かに海を見る。
オレンジオーシャンのような華美な美しさでないにしても、橙色に焼けた空と森の色は、焦燥した心にどこか落ち着きをもたらす。
数時間前まで、とてもバタバタしていたのに。
メタリアとスージーの会話の後にちゃんと二人で納得いくまで話し合ったのだろう、メタナイトはわりと穏便にスージーと別れたようだ。
「お付き合いしますよ。兄上の傷心旅行」
「そういう言い方をするな」
まだ傷は全然癒えてないんだからな。
とでも言いたげに憮然とする兄に、メタリアはくすりと笑みを漏らす。
「ねえ兄上。ぷにぷにちゃんも誘っていいですか?デデデと、わどわどちゃんも」
「駄目だ」
メタナイトは仮面の奥で嫌そうに瞳を狭めた。
「あいつらがいたら、騒がしくて骨休めどころではない」
「みんないたらきっと楽しいのです」
一日中海や森で遊んで夜遅くまでゲームしたり騒いだり、
みんなで一緒に過ごすと考えるだけで楽しい。メタリアは心を躍らせた。
「『お前が』楽しいんだろう」
「ばれましたか」
メタリアは照れ臭そうに頭をかいた。
「でも、僕も結構騒がしいですよ?」
「お前一人ぐらいならどうにかなる」
まあとにかく、少し静養したいが、独りだけでは寂しい、ということなのだろう。
「じゃあ、うちのわどわどちゃんは、連れてっていいですか?あの子は静かだし、よく働いてくれますから」
「いいだろう」
あの子は人の時間を邪魔しないし、よく人の気持ちにも気を配れる子だ。
それに、自分一人ではメタリアも身を持て余してしまうだろうし、彼女の話し相手にもちょうどいい。と彼は考えた。
「父上が亡くなってから家族で旅行なんて、はじめてですね。ぼく、すっごく楽しみなのです、兄上!」
メタリアが風の方角に向かっておもいっきり背伸びをした。
夕焼け空の色が、彼女のマント、後ろ姿と同化する。
本当は、少し泣きたい。
でもここでは泣くことはできない。
彼の脆さを、弱さを知っているのは、
メタリアだけなのだ。