momogenics!🍎🥧

星のカービィ邪道創作(ももメタ専

「meal/機械仕掛けの少年騎士」



今のメタナイト軍団の首領、メルヴィン・メタナイト・ブラウ・ハルバードが幼かった時の、昔の話である。

メルヴィンは小さな時から、機械に親しむのが好きだった。

剣を持つのと同じ、あるいはそれ以上の時間彼はスパナや工具を持ち、自分の時間にはいつも機械職人が集う工場(こうば)にいた。初めは興味津々に見ていただけだったが、
そのうち工具を手渡したり目の代わりをしたりと職人の手伝いをするようになり、
やがて共に工具を握るようになった。
職人たちは、彼を「小さなメカニック」「機械仕掛けの騎士」と呼び、親しんだ。
時折親しげに頭を撫でてくれる職人たちは彼にとって、機械と同じくらい大切な友達だった。
上からの通達で、定時になれば彼を工場から返すよう徹底されていたものの、
問題は彼が自室で、機械いじりをしている時だった。

「メルヴィン様、お食事の時間です」
何時もの通り、アックスナイトが彼を呼びに来た。
「今は忙しい」
メルヴィンはばらしているミニ・ヘビーロブスターから目を上げず応える。
「いけません。お食事の時間です。食事はとらなくてはならないものです。そして騎士たるもの、規律正しい生活をしなくてはなりません」
「うるさいな!」
メルヴィンが横目に顔を上げ、彼を睨む。メルヴィンは、自分の邪魔をされるのが大嫌いだった。
「ぼくは食事はいらない。みんなで取ってくれ」
そしてまた、下の装置に目を落とし、他の存在を遮断した。

「…またか」
火を灯す燭台がいくつも並ぶ、荘厳な長机の食卓には首領のメタナイトを上手に、娘のメタリアや、一歩置いて側近のメタナイツが共に並んでいる。
彼らの食事は、必ず共に取るものだった。それは彼らが常日頃、「一つ」であることを確認するための儀式でもあった。
「おにいさま、またおいそがしいの?」
無垢な瞳で桃色の体を持つメルヴィンの妹、メタリアが子首をかしげて問う。
「再三共に食事を取るように申し上げたのですが…」
「もういい。放っておけ」
メタナイトが冷静な声で全てを一蹴した。
「では、食事を始めよう」
メタナイトが告げ、いつものように、食前の祈りを捧げはじめる。


メルヴィンは食事を一度二度とらないこともままあった。そんなことより、頭が冴えて仕方が無い。ここをこうすればうまくいくはずだ、いいぞ、これで完成する……!
彼は機械を修理したり、新たな装置、武器を考え、それを試行錯誤するのに忙しかったのだ。
そんなある日、メルヴィンは父の部屋を訪ねた。父は不在だった。聡明なメルヴィンは部屋の右奥に通じる書斎に行くために、父の不在時でも、父の部屋を通る許しを与えられていたのだ。
彼は部屋の様子がいつもと違うことに気がついた。
微かに鳴っているはずの音が聞こえない。
それに気がついた彼は自然と、白い暖炉の方を向いていた。そこには金色の置時計があった。
時計は時を刻んでいなかった。
「(あれ…?この時計、壊れているじゃないか)」メルヴィンは思った。
(よし、直せるかどうか、やってみよう)
彼は置時計を取り、書斎へと引っ込んだ。
しかし。
上手くいかなかった。肝心な部品が壊れているのだ。職人たちのもとへいき、その部品がないか訪ねてみたが、これは外宇宙の特殊な時計で、欠けている部品も特殊な上、
「エナジースフィア」というエネルギー体が無ければ作動しない、ということだった。
そうか。ならもうこの時計は不要じゃないか。彼はそう判断した。
そして以前から気になっていた「ギミック」を暴くことに注力することにした。
彼はそれに魅了されていた。
ファイアーライオンのような、ふさふさとした鬣をもつ「ケモノ」が前脚を上げ、同じ高さくらいの柱のようなものを支えている、ポップスターでは見かけない、荘厳な作りの時計だった。
そしてその時計は、定時になると動き出し、美しい音を奏でた。
メルヴィンはその「機械」に日々魅了されていた。
どうやってあの美しい音を奏でているんだろう?と……
昼が過ぎ、夜になった。
父が部屋に戻ってきた。
書斎から光が漏れているのを見つけ、扉を開けたメタナイトは驚愕した。
そこにはバラバラになってちらばる部品と、その中心に座るメルヴィンが居た。
「何をしている!メルヴィン!!」

「うわっ」
メタナイツに拘束され、今まで見たことのない、石造りの暗い地下牢に連れてこられた彼は、彼の腕を掴んだ父によって乱暴に中に投げ入れられた。
すぐにがしゃり、と、鍵を閉じる音がする。
「人の物を壊したお前は罪人だ。罪人には、それなりの罰を受けてもらう。」
そして即座に、一同はその場を去っていった。
闇の中にメルヴィンは1人、取り残された。

「三日間、あそこに閉じ込めておけ。水も食料も、一切与えるな」
メタナイトは幼い子供には過酷とも言える罰を与えた。
メルヴィンを案じ、上申する部下を彼は強弁に退けた。
「三日三晩くらい何も摂らずとも、私の一族は死んだりなどしない」
「むしろ、これで死ぬようなら、私の跡継ぎなど勤まらない」

メルヴィンは一人だった。
子供であれば誰しも……寒さと暗さ、そして不安で怯え、泣いているだろう。
しかしメルヴィンの中にあったのは、そんなものではなく、ただただ「反感」と「不可解さ」であった。
「(いらない時計を分解しただけだというのに……なぜ、ここに閉じ込められないといけないんだ)」
父が怒った理由は彼には理解不能であったし、考える気もなかった。
どれ位時間が経ったかわからない頃、ふと、螺旋の石階段の影から階段の光が漏れてきた。
アックスナイトだった。どうしてもメルヴィンが心配で様子を見に来たのだ。
アックスナイトはおにぎりとたくあんの載った皿と湯呑みを載せたトレーを、鉄格子の目の前に置いた。
「メルヴィン様、お加減はいかがですか」
メルヴィンは答えなかった。
その代わり、ぐぅ~……と腹の鳴る音がした。
「本当は禁じられていますが、幼いあなたに三日三晩何も口にさせないというのは厳しすぎます。メタナイト様には内密にしておきますので、これを…」
次の瞬間、アックスナイトは彼が自分を光る眼で睨みつけていることに気が付き、たじろいだ。

「おまえ達の施しはうけない」
はっきりと、意思の宿った目で彼は言った。
「ぼくは納得していない。なぜ、ぼくがここに閉じ込められているのか。壊れた置時計を分解しただけで罰せられなければいけないのか。それを口にすれば、ぼくはそれを認めたことになる」
アックスナイトは驚愕した。まだ幼い子供である彼は、既に強固な意志と、自らの中に鋼鉄の如き、彼なりの信念を持っている。即ち、思い込んだら一途で、ひたすらに頑固ということである。
まるで父親のような……
彼が、未来の軍団を強固に束ね、率いてゆく資質の片鱗を見せ始めていることを、アックスナイトは明確にその時、感じ取った。
ぐぅ~…、という音が大きく響いた。
だが彼の目つきは変わることはない。
「わかりました。ですが、あなたのお身体に何かあれば事です。どうか、ご無理はなさいませんよう。」
そして皿は残し、その場を去った。
翌日、皿を下げに行くと、おにぎりはそのままで、かぴかぴに乾いていた。
背を向け、体を丸めて彼は寝ている。
…これ以上、我らが介入するまでもない。メルヴィン様は自分の決めた事を貫こうとしているのなら、我らはただそれを見守るのみ。
それから、ひっそりとメタナイツは夜ごと昼ごとメルヴィンの様子を見に行ったが、メタナイトの言う通り彼が弱っている様子は無さそうだった。
メタナイトの意図が通じることを願い、その度に彼らは静かに去っていった。

3日後。
メルヴィンがいい加減慣れてきた空腹と戯れつつ、ぼんやりと考え事をしていると、階段から誰かが降りる音が聞こえてきた。
メタナイツの1人か。そう思っていたら、違っていた。
メタナイト、その人であった。
そして、自分のいる目の前に立つ。
「メルヴィン。私がお前を此処に入れたわけが、分かったか」
今いる暗い石造りの牢獄のような、冷えきった声で父は言った。
メルヴィンは首を振りたかったが、
状況が悪化するのは目に見えていたので、彼なりに考えたことを言った。
「あの時計は、父上が大事にしていたものだったのでしょうか?時を刻まないのに暖炉の上に置いてあったということは、きっと時計として以外に、意味があったのだろうと」
「それもある、だが」
メタナイトは言った。
「お前は断りもなく、他人の物に手を付け、壊した。それが、最も許されないことだ」
「………?」
メルヴィンは、はっとしたように父の眼を見た。
「私のものに限らず、此処にいる者、そして軍団のもの。自分のしたい事に囚われて、他人の物を好き勝手に扱うことは許されない。軍団だけでなく、ここの外の世界でもそうだ。もしお前が、わたしの部下達の物を好き勝手に弄んだとしたら、私はもっと厳しい罰を与えていただろう」
そうだったのか。父上は、自分の時計を分解されたから怒ったのではなく、
「人のものを勝手に」分解したから怒ったのだ。自分のことではなく、他人の事を案じて怒ったのだ。
それに気が付かなかったなんて、ぼくは……
閉じ込められている間、一度も出ようとしなかった涙が、彼の金色の瞳に浮かび上がった。
「私の言う事が理解出来たか、メルヴィン」
「…はい」
メルヴィンは頷いた。自分が受けた罰の理由全てに、納得していた。
「なら良い。罰の期間は終わった」
階段の上で待機していたメタナイツが降りてきて、牢の鍵を開けた。扉が開くと同時に父は階段の上へと去り、後には自分とメタナイツだけが残された。

「…やはり、お腹がすいていたのですね」
コックカワサキのいるキッチンに連れ出され、木づくりのテーブルの上に出されたパンやサラダや、スープなどの食事を、夢中で頬張るメルヴィンをメタナイツは遠くから暖かい目で見守っていた。
その様子は年相応の、幼い子供そのものだ。
「三日三晩食べないとか、ワシならぜーったい、死んでしまうダス」
メイスナイトが震え上がるようなポーズを取った。
「お前は少しダイエットした方がいい」
ジャベリンナイトが軽く毒を吐くと、なにを、とメイスが彼を軽く小突くが、
小さい小競り合いはすぐに収まった。
「しかし、敵いませんね」
三日月の甲を被った、生真面目なトライデントナイトが言った。
「アックスナイト。貴方の言った通り、メルヴィン様は既に我らを導く資質に目覚めておられる。後は……」
「メルヴィン様が、健やかに育ってくださること。体も、そして心も。多くの事を学びながら」
そして祖父が孫を見つめるような目で、再びメルヴィンを見つめた。

「ゔっ」
メルヴィンが突然声を詰まらせた。
何か喉に詰まらせたのか。メタナイツが慌てて飛び出そうとすると、彼の口からぽつりと、意外すぎる言葉が飛び出した。
「……食事って、…こんなおいしいものだったんだ………!」
涙が混じっていた。
そしてむせびながら、また夢中で食事を頬張る彼を見て、メタナイツは彼の一回りも、二回りも大きな成長を感じ取るのだった。

それからもメルヴィンは何かを分解したり、何かを組み合わせて新しいものを作ることを辞めなかった。
その代わり、父の言ったことを理解してからは、不要になったり型落ちした機械を自分が貰ってもいいか持ち主に聞いて、許しを得てから分解に取り掛かるようになった。

「メルヴィン様、お食事の時間です」
アックスナイトが彼を呼びに来た。

「今、調整の正念場なんだ」
工場で脚立に乗り、保護用のグラスを掛けてヘビーロブスターを修理しながらメルヴィンが言った。

「メルヴィン様、お食事の時間です。お止めくださいませ」

アックスナイトの声に、ようやく、彼は振り向いた。
「分かった……。行こう」
そしてぴょんと脚立から飛び降り、グラスを外して壁にかけると、アックスナイトを伴い工場を出た。

あの事件以降、彼は何かに夢中になっていても、家族やメタナイツと共に、食事を取るようになった。
それが、栄養を取るだけでなく、絆を深める大切な時間だと、いつしか彼も理解するようになった。

余談であるが、処罰の後、メタナイトが部下に命じて壊れた、不要な時計を集めさせ、メルヴィンに袋一杯にして与えたのは、
いわゆる「親バカ」の現れであった。

 

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