さみfulldays♪

星のカービィきまぐれ創作、他

someday

一度めは、傷心旅行。

二度目は、ふたりの時間。

 

兄と妹から、次第に互いに不可欠なパートナーへと移り変わり、大分時が経った。 兄が突然、一人になりたいと言い出した。 剣技を磨くひとり旅なら、彼は側近にしばらく留守にするとでも告げとっくに屋敷を出ているだろう。しかしそうではなく、自分にわざわざ告げた。 メタリアは当初深刻な事なのかと考えた。

どうやら単に、息を抜きたいということらしい。多くの土地や人員を領有し、外部の環境や内部の事情など、常に多くのプレッシャーを抱える中、たまには荷を降ろしたい時もあるだろう。人はそれを休暇という。悪いことではない。「修行の旅」も当の本人以外には、それと同じようなものだが… それならば、どのみち彼の身の回りのことをする者は必要だろう、自分で事足りる。

前は水兵のワドルディも連れて行った、だが今回はいない。彼がメタリアの身の回りを整えるのは今も同じだが、メタリアも既に遊び相手が必要な子供からは脱している。そして彼は父になっていた。そして前と同じ、オレンジオーシャンの郊外にある別邸に二人はいた。 その中では、深い森がすべてから覆い隠すように屋敷を包んでいる。森の中では、兄が変わらず剣を振るっている。あまり気分は休まってはいない様だ。

無理もない、残してきた者たちや現実に横たわる課題の事をつい考えてしまう、それが兄なのだ。

困難に逢っても決して逃げず、どのような事にも実直に向かい合うのが、兄の人柄で、最も大きい美点でもあると、メタリアは捉えていた。 ここに来てからも、来る数日から前と同じ様に趣味の読書も、機械いじりもしていない。メタリアは彼の気の済むまで剣を振らせておくことにし、自身は掃除や屋敷にある庭の手入れ、手芸をして過ごした。

日も落ち、胚芽の入ったパンにサラダ、そして近くの清流で取れた魚のシチューと、暖かみのある幾分質素な食事を摂ると、食器を片付けながら、メタリアは兄に話しかけた。「兄上。皆は大丈夫ですよ」 「何のことだ?」彼は訝しんだ。 「お休みをもらっているのですから、息を抜いて過ごしたら良いのです。アックスも兄上や私がいないのを加味して勤務を組んでいるはずですから」

「お前は私が考えていることまで想像していたのか。大した推察ぶりだな」

メタリアは微笑んだ。 「分かりますよ。私でなくてもそのくらいは。兄上の癖は、身に出やすいんです」 琥珀色の紅茶と、チョコレートケーキが出て来た。粉砂糖がかけられ、兄の好みに合わせてある。ケーキには紅色の果実が混ぜ込んである。

「これ、ここの近くの森で取れたラズベリーを使ったんですよ。ジャムにすると、すごく美味しくて」

「あの時と同じだな」 兄が言った。

「何がです?」

「あの時に出てきた、ケーキだ」

「あの時とは?」 「私がスザンナと共にいた時に出た、あのケーキだ」 「ああ…」妹は苦笑した。

この手のケーキは何度も出しているのだが、兄は記憶に残っているらしい。やはり、今も未練があるのか。

「お前が始めて私に出した菓子だったな」 「えっ?」紅茶を飲んでいたメタリアはきょとんとした。 「今となってはの話だが、なぜ代わりを立ててまで、内密にする必要があった?」

 

メタリアは言われて少女の頃を思い出した。その時は「絶対に内緒にして!」と念を押してまで料理人の一人がつくったことにしたのだ。 何故か。願掛けのようなものだった。兄に美しい花嫁が添い遂げる、そう考えただけで自分の心は踊ったのだ。

そして二人がうまくいくように幾度も気を回したりした。しかしそれが尽く裏目に回り、落ち込んでいたときに、料理人の長のコックカワサキから一つの「できること」として二人のために菓子を作るよう勧められたのだ。今度こそうまくいかせたい…そう考えて、幾日も幾度も、失敗を繰り返しながらも、仕事の合間を縫ったコックカワサキや専属パティシェに習いながら二人に出すための菓子を作り続けた。

ラズベリーは恋の果実という。だから、美味しいものを二人で食べて、もっと距離が近くなるようにと、ケーキに果実を通じて願いを込めたのだ。だが。 「う〜ん…」メタリアはどう返すか決まらず考え込んだ。 まず、言うまでもないことなので隠したかった。それに、親族とはいえメタナイトに近しい女の事を匂わせれば、スージーが気にするだろう。

「きっと、照れくさかったんでしょうね」

メタリアはそう言って笑った。(続くかもしれない)