前兆(不穏なメタスー+メタモモ)
まただ。
またあの夢だ。
あの時以来、あの乙女の姿が頭から離れない。
桃色の身体に白い鎧を纏った、白い翼の乙女。
毎日夢の中に彼女が出てくる。
ギャラクシアの力を持って覚醒し、ふたりが新たな姿となった時。
私は私の知らない彼女の姿を見た。
透き通る瞳、柔らかな白い羽毛を豊かに湛える大きな翼、見たものの心を包み込んで融かすような、慈愛に満ちた微笑み。
彼女を見た瞬間、雷に撃たれたように私の心は凍りついた。
意識の全てが、彼女に支配された。
彼女の祈りにより、私は絶対的な自信と力強さを手に入れる。
恐れを溶かしてゆく。
あらゆる祝福を私に授ける。
銀河の命たる光と一体化し、私たちは共に、闇を切り裂く。
そのような胸が弾き飛びそうな高揚感と、全能感ともに、私は目覚める。
そしてこの後ろめたさだ。
決して認めたくなどない。
今の私の隣には、紅色の滑らかな長い髪を持つ、美しい娘が眠っている。
なのに私は。
「おはようございます、兄上!」
いつもの通り外の空気を吸うために屋敷の外に出ると、元気な声がした。妹だ。
彼女の姿を見た瞬間、かの乙女の姿が被さる。
「おはよう」
胸がざわついて、短い言葉が反射的に滑り落ちる。
妹はいつもどおり身近で、派手で、元気いっぱいで騒がしいいつものメタリアだ。仮面に顔が隠されているとはいえ、その姿にしとやかな白い乙女の面影はとても浮かんでこない。
あの神々しいとさえいえる乙女は、本当にこのメタリアなのか……
「兄上が最近そっけないのです」
メタリアがアタシに悩みを打ち明けてきた。
「メタナイトが、アンタに冷たいの?」
「ええ…」
常にハイテンションの塊のようなこの子が、病気か、と思えるほど元気がない。彼女にはそれが相当堪えているようだった。
「なにか話しかけても無視されるか、あとで、とかなにかと濁されるかで……」
メタリアはしょんぼりと俯いた。
「ぼく、何か悪いことをしたのでしょうか……」
「そうねえ…」
アタシはそんな彼女にどう答えるか、一瞬思案した。
「どう接したらいいか、わからないんじゃない?アンタと」
そう返すのが精一杯だった。
「ですよね……兄上とは仲直りしたつもりだったけど………でもやっぱり今更、出戻ってきても、ですよね…」
そうじゃないのよ。いったい、アンタはどこまで鈍感なの。
本音を口に出すのは無理だった。
それは彼のことも、アタシのことも、全てを認めることになるから。
今からそう遠くないあの日。ポップスターに襲来した暗黒生命体とのハルバードをも巻き込んだ激しい戦いの末の話し。沈黙した宵闇の中、他の多数の彼の部下とともに暗闇の中へと生身で飛び立ったメタナイト達を案じながら宙空(そら)を眺めていると、遠くに小さな光が降りてきた。それは近づくにつれて、ヒトだとわかった。白く輝く、眩い光を纏う白い騎士と、白い女の子。
手を取り合って、ハルバードに降りてくる二人を見た時。
あの二人には入り込めない。
アタシはそう確信してしまった。
甲板に降り立った二人は光をはじき飛ばし、いつもの二人に戻った。
あっというまに乗組員が群がって、二人の姿は見えなくなる。
アタシはそれをただ遠くから見ていた。
「スー!!」
踵を返そうとしたその時、遠くからメタリアが大声でアタシを呼んだ。この子は、なにかと、やたら気を利かせるのだ。アタシとメタナイトを、二人きりにするために。
メタリアが群がる部下たちを引き受け、アタシは歩み寄ってきたメタナイトと対面する。
「ただいま、スージー」
彼の金色の瞳が穏やかに揺れる。
「無事でよかったわ、メタナイト」
アタシたちは、いつも通り抱き合う。
彼は、いつも通りアタシに優しい。
だけどそれは、残酷な優しさだ。
彼は完璧な優しさのかわりに、メタリアに見せる少し怒りっぽくて、時々抜けていて、そしてほんの少しだけ陽気さをふくんだ表情を、アタシに見せることはない。
そしてアタシ自身も、彼と共にいるのとは別の、アタシ自身が望む生き方を見出しつつあった。アタシは、ハルトマンの娘。
それなりのあり方を、メタナイトに恋するのとは違う、もうひとりのアタシが望んでいる。もう無視することができないくらい、それは日に日に大きくなっていた。
ギャラクシアと心を一つにした騎士の魂が、ギャラクシアに切り裂かれて生まれた私達は、
良くも悪くも、この剣の導く運命(さだめ)からは、逃れられないのか。
(「スージーショック」に続く)
ピンクの女神たち
どこぞの設定資料には存在したらしいアルティメットスージーと
創作メタのアルティメットももメタ(ギャラクシアの乙女)
ウルトラスーパーデラックスムーン
今日のおつきさまはとーってもおおきいですねえ、兄上」
「そうだな、メタリアよ」
初登場!ギャラクシアナイト&ギャラクシアの乙女(兄妹)
なお、当社比1.13倍の今日の月は雨天に付きみていません
小さな変化(カービィとメタナイト)
「おいしくない」
コピーした瞬間、そう言いたげに悲しげな顔をしたカービィは、瞬く間にギャラクシアの力を持って、カンパニーを滅ぼしてしまった。
呆れるほど平和な日に果たし合いをしたのが災いし、目の前で愛剣ギャラクシアを食べられてしまったメタナイトは仕方なく汎用の剣を持って、自分の名前を騙るサイボーグ類などを蹴散らしつつ、慌てて追いかけてきたのだが……
追いついた時には全ては終わった後のようだった。
ギャラクシアをコピーしたカービィ、頭にはちょこんと持ち主の顔のお面まで乗せている。
それはそれで可愛らしい…のだが。
「カービィ」
メタナイトが、諭すように言った。
「そろそろ、ギャラクシアを返してくれないか」
カービィはこくん、とうなづくとギャラクシアを吐き出し、
ギャラクシアは星の形の光を纏っていくらかバウンドし、メタナイトの手に戻った。
「いい子だ。ありがとう」
カービィは、意外に思った。
メタナイトが自分に礼を言ったことなどなかったから。
でも、彼はそれ以上気にしなかった。
彼は知らない。
嘗ての彼と彼女、ひとつになったふたりのことを。
ひとりからふたりに分たれた、今の彼の中には、「彼女」も共にいることを。
―――
解説:彼女とは、「ギャラクシアの乙女」、かつてそれを所有した騎士でありギャラクシアの魂の「一部」である、メタリア姫のことです。
機械仕掛けの騎士 番外編
主人からの密命。
「彼女の誇りを奪いなさい」
どういう意味か、解りかねた。
しかし徐々に、主人の意図するところが解ってきた。理解してしまった。
「騎士としての誇り、人としての誇り。全てを奪ってしまいなさい。彼女が正気に戻ったとき、何があったかを覚えていれば、彼女は生きていられないでしょう」
つまり。
彼女に傷を付けろと言っているのだ。
物理的に傷害せよと言っているのではない。
彼女自身の重みで、彼女そのものが崩壊してしまうような傷を。
メタナイトボーグと呼ばれる型は、自分だけではない。
自分が躊躇い続けていれば、純粋に命令に従うだけの「マシーン」が放たれる。
そうすれば、本当に彼女は……
「アリア」
彼女を守らなければ。
直感的にそう感じた。だが、背立した思考が彼を苦しめる。
敵勢力の娘に肩入れするのはなぜだ。
そんな自分は、すでにカンパニーから離反しているのではないのか。
主人を裏切っているのではないのか?自分は誰の騎士なのだ。主人か、アリアか?
そう、自分は主人に使えるメタナイトボーグ、M-71105だ。
ただ、ミストレスの命令といえど、私にはあの娘を理不尽に傷つけることなどできない。
どうにかして、あの娘を実の兄の元に返してやらなければ。
その上で、私が殺す。
(番外編。※本編とはリンクしません)
泣きたい場所 (メタスー破局後のメタとモモ)
スージーが出ていった日の夕刻。
「メタリア」
メタナイトが声を掛けた。
見下ろす大地のはるか遠くには、夕日に照らされた海が見える。
「はい」
「今度、海を見に行くか」
今、ここには二人しかいない。
メタリアが見た、すこし洒落た、灰褐色の石造りのバルコニーにやや屈みもたれて、風にあたる彼の横顔は、
だいぶ吹っ切れていた。
「海、ですか……いいですね」
兄が言うのは、言うまでもなく、オレンジオーシャンのことだろう。
あそこは、夕暮れ時ともなれば、空から大地まで、何処までも蜜柑色に染まる。その様相は、得もしれぬ美しさだ。
一度、二人が幼い頃、今は亡き父に連れていってもらった。それっきりだ。
「僕達、旅行なんてしたことないですものね」
「そうだな」
ふたたび、二人で静かに海を見る。
オレンジオーシャンのような華美な美しさでないにしても、橙色に焼けた空と森の色は、焦燥した心にどこか落ち着きをもたらす。
数時間前まで、とてもバタバタしていたのに。
メタリアとスージーの会話の後にちゃんと二人で納得いくまで話し合ったのだろう、メタナイトはわりと穏便にスージーと別れたようだ。
「お付き合いしますよ。兄上の傷心旅行」
「そういう言い方をするな」
まだ傷は全然癒えてないんだからな。
とでも言いたげに憮然とする兄に、メタリアはくすりと笑みを漏らす。
「ねえ兄上。ぷにぷにちゃんも誘っていいですか?デデデと、わどわどちゃんも」
「駄目だ」
メタナイトは仮面の奥で嫌そうに瞳を狭めた。
「あいつらがいたら、騒がしくて骨休めどころではない」
「みんないたらきっと楽しいのです」
一日中海や森で遊んで夜遅くまでゲームしたり騒いだり、
みんなで一緒に過ごすと考えるだけで楽しい。メタリアは心を躍らせた。
「『お前が』楽しいんだろう」
「ばれましたか」
メタリアは照れ臭そうに頭をかいた。
「でも、僕も結構騒がしいですよ?」
「お前一人ぐらいならどうにかなる」
まあとにかく、少し静養したいが、独りだけでは寂しい、ということなのだろう。
「じゃあ、うちのわどわどちゃんは、連れてっていいですか?あの子は静かだし、よく働いてくれますから」
「いいだろう」
あの子は人の時間を邪魔しないし、よく人の気持ちにも気を配れる子だ。
それに、自分一人ではメタリアも身を持て余してしまうだろうし、彼女の話し相手にもちょうどいい。と彼は考えた。
「父上が亡くなってから家族で旅行なんて、はじめてですね。ぼく、すっごく楽しみなのです、兄上!」
メタリアが風の方角に向かっておもいっきり背伸びをした。
夕焼け空の色が、彼女のマント、後ろ姿と同化する。
本当は、少し泣きたい。
でもここでは泣くことはできない。
彼の脆さを、弱さを知っているのは、
メタリアだけなのだ。