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星のカービィ邪道創作(ももメタ専

断片/機械仕掛けの騎士⑥

いつもの穏やかな朝。

いつものように、外周の入口の一つから現れたアリアに、M71105は外殻の隙間から、穏やかに微笑みかけた。
「おはよう、アリア」
「おはようございます、おにいさま」

ここはとても静かだ。
辺りはただひたすらに白く、とても。
幹部も含め、ごく一部以外のものは立ち入りを固く禁じられている、
ささやかな緑に彩られた、中空に人口の白い島がいくつも柱で支えられた庭園。
内部には眩しすぎないよう調整された人工太陽光がいくつも降り注ぎ、
喧騒に溢れたアクシズアークスの内部、及び堕落したネオンに染まるポップスターの現状では、もはや「最高の贅沢」ともいえる、浮世離れした環境。
生き物の営みの声はなく、ただ、清らかな水の滝が無心に流れる音だけが響いている。

しばらく滝が織り成す涼しげな風に身を任せながら、二人は丸く壁に沿った白い通路を歩き、いつのまにかどこかに止まると、水の音に耳を澄ませながら庭園の中央にあるとりわけ花も咲き、豊かな緑に彩られた島を何を言うまでもなくずっと眺めていた。

おもむろに、M71105が語りかけた。
「アリア、私の為に一曲歌ってくれないか」

メタナイトの機動兵器が通信網を妨害し、
拠点の無力化、及びアクシズアークスの防衛網を次々と破っているとの報告が続いている。
周知の事実だが、メタナイト側はメックアイに本社を置くライバル会社の支援を受けている。いまのメタナイト軍の機動兵器は、原住民の科学レベルでは到底実現不能なテクノロジーを備えていることもあり、この件にはメックアイ側のハルバード王家、もとい大企業のみで構成される企業連合の一角を占めるスティールオーガン社が密かに噛んでいると自ずとたどりついた。
メタナイト固有の通信妨害兵器を含む新兵器も導入しているようで、どのみち、アクシズアークスへの到達は時間の問題だ。
「“蝙蝠”め」
その事実を聞いた時、M71105は目的の為にはどこまでも狡猾になることを躊躇しない、
「赤いメタナイト」の姿を思い浮かべ、軽蔑の意と共に吐き捨てた。
今や「はぐれ企業」である我が社は、スティールオーガンにとっては「制裁」という大義名分のもとに制圧し、秘密裏に取り込むには格好のターゲットだろう。

すでにメタナイトの到達予想時刻に合わせて出撃命令を受けている。マスターからは、駆除するようにとの命令だ。

「はい、おにいさま」
M71105の言葉にアリアはすぐ、いつものように甘い声で答え、それから
んー、と可愛らしく小首をかしげると、
パッ、と何かを思いついたように顔が明るくなり、息をすうーっと吸うと歌い始めた。

おお いだいな メカナイト
おお いだいな メカナイト
銀河に 駆ける 騎士よ

敵勢力を連想させる、という理由もあり、
正式な製品化にあたり「メタナイトボーグ」は「メカナイト」という名に改められた。自分を含む初期ロット九体は今では「ベータ版」とされている。
彼自身の正式名称は、旧来名のままだが、
偉大なカンパニーの一員として活動し、CEOの警護という重要な役目を仰せつかった誇りから、自らも「メカナイト」と名乗っていた。

二番もあるらしく、今度は彼女は自分に背を向け、指揮をとるように背を伸ばし、腕をかわいらしく振り始めた。
いつも彼女が聴衆に向けて歌っているように。

おお いだいな メカナイト
おお いだいな メカナイト
正義へ みちびく 騎士よ

少し目を閉じると、思い浮かんでくる。彼女が聴衆に促す姿を。
「さんっ、はいっ!」
彼女の促しで、上から下から外周通路に集まった社員たちが、社員ならすべて歌詞が頭に染み込んでいる、三番目を歌い始める。
彼女と一体になって。彼女の声はいつぞやかき消され、覇気のある社員たちの社歌となる。
機械的で、彼女のそれに比べ抑揚に欠けるところもあるが、それは紛れもなく「歌」だ。
社員を活性化させ、一体へと導く立派な「プロダクト」に育ったアリア……M71105はいつも、そんな「妹」を誇らしく思いながら歌に聴き入っていた。
そんな余韻に浸りながら、彼はつかの間の幸せを、噛み締めるように少女の歌声に耳を寄せていた。

そんな二人を、更に高みの外周から見つめながら、ベアトリスは複雑な思いでいた。
無機質なロボットの前で歌わせ、滑稽な姿を笑うはずだったアリアが、いつのまにか社員の「ココロ」を掴んでいる。
それは企業社員として理想的な擬似人格を模したプログラムにすぎないが、
彼女の舌っ足らずな甘ったるい声や、丸っこく愛らしい容姿、さらにややあぶなっかしい動きが彼らに「快」の感覚を与えたらしい。
いつしか社員アンケートでも「楽しみにしている」との声が多数を占めるようになり、遂には彼女と共に歌っている…

(わたしは「欠陥品」なのだろうか)
社員の「ココロ」に何一つ影響を与えることのなかった自分には、彼女が自分が決して持たないものをもっていると自認せざるを得なかった。
そして自分の警備兵であるはずのM71105をメタナイトにぶつける理由。
今のメタナイトに対抗し得る社員が彼しかいなかったのと、彼を破れば、メタナイトは自分の元にやってくる。
「スザンナの亡霊」、彼の息の根をこの手で止めるのだ。
M71105は既に、彼を自分の元へ導くための、捨て石にすぎなかった。

 

 

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解説:海外版ロボボプラネットではメタナイトボーグの名称はMecha Knight(メカナイト)です。改だとメカナイト+。