momogenics!🍎🥧

星のカービィ邪道創作(ももメタ専

断片/機械仕掛けの騎士④

 

メタリアはうっすらと目を開けた。

白くまぶしい光が目を焼く。

見るとそこは、正八角形の柱状の部屋だった。

生命の気配が微塵も感じられない、電子の路線が走る白く、無機質な空間。間違いない、ハルトマン社のラボの中だろう。

(やっぱり、捕まってましたか)

体の自由が効かない。

下を見ると、体が床からとてつもなく高く浮いており、体軀ごと金属のベルトのようなもので壁に固定されている。壁面のちょうど真ん中あたりの高さに均等に並んだ、八つの緑色のパネル。自分が固定されているのはその一つらしい。

今に至るまでの記憶を想起する。兄とともにメタナイトボーグの改造型アーマー、ステラマキナで出撃し、道中兄を庇って撃墜された。

そして不時着水した先で、新型ギガウォルトとハルトマンの斥候軍に遭遇し抵抗するも、成す術もなく捕らえられた…

メタナイトボーグのレーザーの直撃を受けたところまでは、覚えてるんですけどね…)

体を動かそうとするも、手指以外はびくともしない。今の状態ではどうしようもないようだ。

とにかくチャンスを待つしかない。メタリアはなにか脱出の手がかりになるようなものを探そうと周囲の様子を観察し始めた。

すると。

 

「お目覚めのようですね」

機械的な音響の響き。スピーカーのようなものを通してだろう、滑らかで可憐な女性の声が響く。

直後に、天井から部屋の形状と同じ形の文様が動き始め、同形状のハッチが降りてくる。

そこには緑色の髪の女性がいた。

どこかで見たような女性だった。見覚えのあるヘルメットのついた外套に長い髪。そう、彼女は兄の元婚約者、スザンナに瓜二つだったのだ。しかし彼女は黒いヘルメットに、真っ白いスカートを身に着けている。青緑色の髪と同じく、スザンナがピンクをまとっていたのに対して彼女のそれは青緑。なにもかもスザンナとは正反対の色だった。

(スー…?でも、スーじゃ、ない………?)

彼女はメタリアの視線の少し上側で止まると、慇懃無礼に礼をした。

「はじめまして、メタリア姫。」

「君は…」

「ようこそ、ハルトマンワークスカンパニーへ。わたくしは暫定CEOのベアトリス・アンジェラ・ハルトマンと申します。お目にかかれて光栄ですわ、メタリア姫」

「もしかして君は、スージーでは、ないのですか?」

女性は体からセパレートされた肘を手にかけ、思案するように小首を傾げた。

「スージー。スザンナ・ファミリア・ハルトマンの事を指しておられるのですか?わたくしは彼女とは、全くの別物ですわ。力のあるものに寄生して、利益を吸うことしか出来ないだけの無能とは、わたくしは全く異なります」

ベアトリスは心外、とばかりに豊かな青緑色の髪を揺らした。

「随分とスージーが嫌いなようですね。君は何者なのですか?」

「故・前CEOに代わり、新たな後任が決まるまで暫定的に代理を勤めております」

メタリアが発した問いの真意は、ベアトリスからは帰ってこなかった。彼女は軽妙にそれを押し流してしまう。

「それにしても兄君同様、可愛らしいお顔立ちでいらっしゃること。しかし、同じ顔でもこうも違うものなのですね。かたやポップスターの一大軍勢を率いる騎士、かたや鉄砲玉としてしか使われない、飾り物のお姫様」

「ぼくはお姫様ではありません。騎士です」

 如何にもわざとらしい笑みに生真面目に返すと、ベアトリスは歪んだ笑みを益々強くした。

「いいえ、お姫様ですわ。メタナイト軍団の無垢で、無知で、無力なお姫様。あなたの唯一の取り柄は、その愛らしさ。その愛らしさだけで、世の中を渡ってきた方」

「初対面で随分と、ぼくを知っているかのような物言いですね。それで?ぼくになにか用ですか?」

ベアトリスはうふふ、と首をやや傾げて微笑むと、両手を広げ、やや高揚した声で話し始めた。

「弊社では、ずっとあなたの戦闘やその他の様子をモニタリングさせていただいておりました。貴方はたった一機で我が企業軍の三割に至る戦力を壊滅させ、我が社は甚大な被害を蒙りました。ですが、その高い戦闘能力は、正直、賞賛に値します。

その結果、貴方を是非、ヘッドハンティングさせていただきたく、お連れいたしましたの」

まあ、貴方にその意味は理解できないでしょうけど、と彼女はぽそりと付け加えた。

「我が社の査定では、純粋な戦闘能力では兄君のメタナイト様より上。

ぜひ、貴方のアイデンティティである、その破滅的とも言える破壊能力を活かして働いていただきたいのですが…生憎ですが、現在は優秀な量産メタナイトボーグが防衛業務の主力になっておりまして。今は貴方の為の枠がありませんの。そこで、」

ベアトリスはメタリアの顔を見据え、にっこりと笑った。

「貴方には我が社のマスコットキャラクターとして働いていただこうと考えております。愛らしさ以外には暴れるしか能のないあなたにも、きっとうってつけのお役目ですわ」

メタリアは大体何をされようとしているのか察した。恐らく奴らの手駒にする気なのだろう。重い鎧を着せられ、操り人形にされた兄と同じように。

「なにをしようとしているかは知りません。ですが、ニセモノの記憶や心を植え付けたとしても、騎士の心は失われませんよ」

メタリアはきっとした表情でベアトリスの顔を見据えた。

「どんな物も作り変える君たちにも、人の心だけは、作り変えることは出来ません。なぜなら心とは、人の歩いてきた道の記録。その人が自分の心で見て、感じて、生きてきた時間の蓄積、そのものだからです!」

「あら、そうなのですね」

ベアトリスは懐から分厚い「トースト」と呼ばれる、ポータブルパネルを取り出した。 

「お話はこのくらいにしましょう。生まれ変わった貴方とお会いできることを、楽しみにしておりますわ」

ベアトリスの瞳が冷たく狭まる。

「さようなら、メタリア姫」

 

 

ぎゅん、と体が後ろに引っ張られる感覚。体が固定されたパネルが後部へと動きはじめた。戸惑う間もなく、四面八方に規則的な穴が穿たれた金属の通路を高速で移動してゆく。

やがてがちり、と動きが止まった。衝撃で思わず目を閉じる。目を開けると、そこは緑色に発光する、とてつもなく狭い鉄製のボックスだった。

目の前の先、その棺桶のようなボックスの入り口が閉まる。そして、明かりがふっと消え、視界が真っ暗に閉ざされた。

ちくり、と腕に痛みが走る。メタリアが目の前の状況に戸惑っていると、頭がぼんやりとしてきた。やがて、思考が混濁し始めた。

 

わたしはなぜここにいるんだろう?

言うまでもない。わたしは敵に捕まった。そして何かをされようとしている。

なにか、ってなんだろう?そして敵ってだれなんだろう?

決まっている。この素晴らしいカンパニーに仇をなす存在。

違う。わたしの敵はカンパニーだ。カンパニーとは…この宇宙に永遠の繁栄をもたらす偉大なる組織。わたしはその誇り高き一員で…

違う…わたしはメタナイト軍団の一員で、メタナイトの妹。カンパニーによるこの星の、再度の支配を阻止するために戦って…

でもそれはほんとうなの?

わたしはほんとうに、メタリアなの?

 

 

………わたしはだれ?

 

 

(………怖い…!)

自分が自分でなくなってゆく、自分自身が失われてゆく感覚に、メタリアは恐怖した。

(…兄上…!ぷにぷにちゃん……!!)

目の前の暗闇が視界そのものなのか、失われつつある意識なのか、もはやわからなくなっていた。ただひとつ言えるのは、ここで意識を失えば、自分は自分でなくなってしまう。

意識と自我を失う不安と恐怖で、目に大粒の涙が浮かんでくる。

最後に浮かんだのは、「彼」の顔だった。

いつか自分を身を盾にして守ってくれた、彼。

(デデデ…!!)

大雑把で豪胆だけど、本当は誰よりも強く、かっこいい彼。

かつて、星全域の侵略を画策する兄の元から逃げ出したことを咎めも問い正したりもせず、気づかないふりをして自分のことを受け止めてくれた彼。だけど時に静かに自分を諭し、新たな道へ歩く勇気をくれた彼。

助けを求めている時、必ず、自分を守ってくれた、ただ一人の存在。

(デデデ………たすけて……………!)

何とか意識を保とうとメタリアは抵抗を試みるが、やがて彼女の意識は闇の奥底へと飲み込まれていった。