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星のカービィ邪道創作(ももメタ専

「逢瀬」(メタカビ)

 

彼は変わったカービィだった。
他のカービィのように、いきなり食物や獲物を口を大きく開けて吸い込んだりしない。
棒と草の根を編んで作った釣り竿で糸を垂らし、魚を待つ。
静かに、ただひたすらに。

その遠く後ろの鬱蒼とした木々の中では、あたかも「ピンク色のカービィ」のような色合いの「メタナイト」が、枝に捕まり、そこから勢いをつけて飛び、背に生えたこれまたピンク色の羽を使って一回転し、枝の上を軽やかに走り…を繰り返している。

やがてそんなパルクールを堪能し満足しきったメタナイトの姿をした娘は、
真っ青な体をした、釣り糸を垂らすカービィのそばに座った。
青いカービィは何も言わない。そして動かない。不動の山の如く。
やがて微動だにしない彼に退屈して、彼女はカービィの肩に頭をすり寄せた。
反応がないのにムキになったのか、メタナイトはごつん、と軽く肩に何度も仮面のついた顔をぶつける。
だが彼は意にも介さない。
でも、そんな彼の頑なさが、彼女は好きだった。

彼女はさらに仮面を取り、ぐりぐりと彼の頬に頬をすり寄せた。
彼はうるさがる素振りを見せるわけでもなく、彼女の圧迫に受動的に耐えている。
痺れを切らした彼女はぎゅ、と彼の胴に手を回した。
わっ、と薄いピンク色の羽根で覆い隠すことはしない。
魚が逃げてしまうからだ。

彼は手慣れていた。
それなりの時間粘った末、二人がちょうど食べる分だけの魚を釣った。
ワオ、わー、すごいのです、カービィ!などと言いながら娘は彼の竿が捉えた魚をこれまた彼の手製の網で掬った。
ふたりが食べるのにちょうどいい量、とはいえ、カービィは娘の6倍くらいは食べていただろうか。
それでもカービィ族としては異様なくらいの「少食」だ。
焼いた魚を食べ、暗い夜の中焚き火の側で少しの間寄り添い、いつも彼がしているように、寝心地の良さそうな草のあたりで、眠る。
明日には、帰るつもりだ。
それとも。
もう1日ぐらい、ここにいようか。
自分が2、3日いなくても、軍団は何事もなく動いていく。
「ずっと」、いなければ?
彼らはおそらく、自分を探すだろう。
今のところ、メタナイトの「血統」を持つのは、自分だけなのだ。
彼らはよく尽くしてくれる。
やりたいことをやる時に父以外はほぼ文句も言わないし、
自分の時にわがままな振る舞いを受け入れ、よく理解してくれる。
それは、自分がまず「メタナイト」で、
メタナイトの娘」だからだと彼女は感じていた。
軍団としての体を為す彼らの中核としてまず、「騎士の誇り」が必要であり、
それを強固にする象徴として、
代々引き継がれてきた「メタナイト」そして、
「宝剣ギャラクシア」が必要なのだ。
それがない自分を彼らは探しに来るだろうか?
どうだろうかな。彼女は直感的にそう思った。
自分は性質も、厳格な父とは似ても似つかない。おっちょこちょいでよく失敗をするし、迷惑をかけることもしょっちゅうだ。
「メタリア様は、いつも明るく、前向きなところがよいのです」とメイスやアックスはよく言ってくれるけども。
至らない自分が、部下を我慢させていることも多かろうとも思う。
自分は軍団のものを鼓舞し、常に笑顔で、次代を引き継ぐものとして振る舞う、それが軍団での彼女の存在条件だと感じていた。辛い素振りや悲しい顔など、してはいけない。彼のそばではそれをしなくてよかった。2、3日家を空けるといえば、父が異を唱えなければ、いつでも出てくることが出来た。
だが、殆どは父の許しが降りない。
故に彼に会うための名目で、果たし状を書き、決闘を行い…
しかしそれも彼に会う楽しみの一つだった。その後は、仲のいいものだ。二人で思うままに時に離れたり、くっついたりして、過ごす。
今はそんな、「気の休まる時」だった。

隣に眠る、青いカービィを見た。彼はピンクのカービィとは似ても似つかない、低い寝息をたてて、ぐっすり眠っていた。
彼女の視線を感じたのか、彼はぱちり、と黄色い目を開けた。
「ごめんね、起こしちゃった?」
そういう彼女に、カービィは首を振った。
二人の、同じ金色に輝く目がかち合う。
二人はしばらく、同じ金色に輝く光に吸い寄せられるように、互いの瞳を覗き込んでいた。
しかし、いつしか二人の口から意味の無い、ぷっ、とした笑いが漏れる。
空気が弛み、青いカービィはふたたび体を捻り、眠りにつこうとする。
娘は黄色い手袋を外し、そんなカービィと同じ丸いピンク色の手を、そっと彼のそれに重ねた。